転職先を探しているとき、求人票に「年俸制(ねんぽうせい)」という言葉を目にすることが増えてきました。グローバル化によって成果主義が浸透してきたからでしょうか。
企業としても、これまでの年功序列から成果主義に変えて賃金を個別に決定することで、「勤続年数は長いが成果に乏しい社員」の給与を上げる必要がなくなり、人件費の削減に繋がるケースもあるようです。
では年俸制は、日系企業で一般的な月給制と何が違うのでしょうか。
この記事では、年俸制の定義とメリット・デメリットをまとめました。また、年俸制を導入している企業の基本給・ボーナス・残業代・各種手当金・退職金・税金の仕組みについても詳しく解説してあります。
ご自身の会社が年俸制に移行した方、転職先が年俸制の方にぜひ読んでいただきたいと思います。
この記事でわかること
- 年俸制の定義(月給制との違いも含む)
- 年俸制のメリット3つ・デメリット2つ
- 年俸制の時のボーナス(賞与)の支給方法
- 年俸制と組み合わせた固定残業代(みなし残業代)や裁量労働制の仕組み
- 年俸制の時の退職タイミング・基本給・各種手当て・退職金・税金
そもそも年俸制ってどんな仕組み?
年俸制とは、個人の職務遂行能力に応じて1年単位で賃金を決定する給与制度です。企業側が前年度の業績や転職前の実績を踏まえて、年度初めに1年分の給料を年俸として提示します。
ただし、年俸として提示された金額が年の初めにまとめて支払われることはありません。労働基準法で「毎月1回以上の支払い」が定められているためです。
月々に受け取る給料は「年俸を12分割した金額」もしくは「年俸を14分割した金額」であることが多いです。年俸を14分割した金額をもらう場合は、残りの2/14は夏季と冬季の賞与(ボーナス)として支給されます。
年俸制と月給制の違いは!?
年俸制でも給与が毎月支払われるのであれば、日本で一般的な月給制とは何が違うのでしょうか。簡単に表にまとめました。
年俸制 | 月給制 | |
給与決定に影響を与えるもの |
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賞与決定の方式 |
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給与の金額 |
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残業代・ボーナス(賞与)・退職金・各種手当に関しては後述します。(上記はあくまで傾向であり、企業ごとに詳細な条件は違います。あくまで参考としてご覧ください。)
年俸制のメリット・デメリットまとめ
続いて、年俸制のメリットとデメリットをまとめていきます。ここではメリットを3つ、デメリットを2つご説明します。
年俸制のメリット3選
メリット①1年間の計画が立てやすい
1年間で受け取る給与額が年初にわかるため、ローンなどのプライベートの計画が立てやすいです。
メリット②1年間は減給の心配がない
万が一、会社側の期待に沿った活躍ができなかったとしても、年俸として提示された1年間の給与額に変更はありません。
メリット③年齢が若くても高収入の可能性がある
年俸制は成果主義的要素が強いです。したがって勤続年数や年齢に関係なく、実力があれば高収入を得られることも多いでしょう。
年俸制のデメリット2つ
デメリット①翌年の年俸が下がるリスクがある
年俸制では、年初に1年分の年収を決めて1年ごとに更改していくため、来年度の収入は未定です。年初に期待された成果をあげられなければ、今の年俸額が来年度以降も続くとは限りません。
デメリット②プレッシャーが大きい
年俸制の場合、年初に1年分の活躍を期待されて年俸が提示されます。「会社の期待を上回らなければ」といったプレッシャーが大きく、プレッシャーに打ち勝つ精神力と常にモチベーションを高く保つ意志力が必要です。
年俸制でも賞与(ボーナス)は支給される?
会社から年俸制を告げられた時、不安になるのがボーナスの有無ではないでしょうか。
会社によってボーナスの算定基準は異なってくるため、詳しくは就業規則や雇用契約書の規定を見ていただきたいですが、ボーナスの支払い方法は以下の2通りであることが多いです。
転職の際に「年俸制・賞与あり」との求人票を見たら、転職希望先は以下の2つのどちらに当てはまるかをご確認ください。
ボーナスの種類①賞与が年俸の中に含まれる
年俸制を導入している会社は、賞与も含めた年俸額が決まっている場合が多いです。
この場合、毎月の給料は年俸を14等分または16等分した金額で、夏季と冬季のボーナス支払日に年俸の残り2/14または4/16が支払われます。
ボーナスの種類②年俸とは別枠で用意される
毎月の給料は、年俸額を12分割した金額が支払われます。ボーナスは年俸とは切り離して考えて、別枠で追加支給します。
この場合、ボーナス金額は現在の会社業績と個人成績に比例します。会社側としては業績悪化のリスクに備えられるメリットが、個人としても仕事で挙げた成果がその年のボーナスに反映されるメリットがあります。
年俸制でも残業代は支給される可能性がある!
年俸制で働く場合「残業代は支払われない」と思っている方が多いです。実際のところ、年俸制の社員に残業代は支給されるのでしょうか。
年俸制でも労働時間が多いと残業代は支給される
法律上は、年俸制でも残業代は支払われます。
年俸制の本来の目的は「労働時間に関係なく、労働者の成果や業績に応じた賃金額を決めること」でした。しかし労働基準法は月給制を前提としており、労働時間の上限が定められています。
したがって、年俸制を導入している企業でも実際の労働時間が労働基準法で定められた法定労働時間を超える場合は、時間外手当(残業代)が受け取れます。
貰える残業代は、雇用契約書を見ればわかる!
では、残業代はいくら受け取れるのでしょうか。ご自身の会社の雇用契約書を見ると分かります。
雇用契約書で着目するポイントは「年俸のうち何万円が残業代で、その残業代が年間で何時間分の残業に相当するか」です。
雇用契約書に上記の明示がない場合やあいまいな場合は、法的には年俸の全額が基本給となり、残業代は別途支給されます。
年俸制の雇用契約を企業側と結ぶ時は、雇用契約書や賃金通知書で年俸の内訳(基本給と残業代)を確認してください。
固定残業代が含まれていると残業代なしかも
例えば「年俸にひと月当たり50時間の時間外手当を含む」と書いてある場合は、年俸の中に固定残業代が含まれていると考えてください。
この場合、年俸以外に残業代が支払われることはありません。ただし50時間を超えた残業をした場合には、追加で残業代を受け取ることができます。詳細は応募先企業の人事や採用担当に確認してみましょう。
裁量労働制+年俸制で働く場合はどうなる?
裁量労働制とは、労働時間管理方法の一つで、労働時間の取り扱いは労働者個人の裁量にゆだねられます。ただし企業側は「みなし労働時間による残業代」と「深夜手当や休日手当の割増賃金」の支払いは必要です。
したがって、雇用契約書に「年俸700万円、うち時間外労働分80万円、深夜勤務分20万円」といった年俸の内訳が明記されていなければ、裁量労働制でも週40時間・1日8時間を超えた労働に対する残業代を年俸とは別に受け取ることができます。
年俸制にまつわる疑問集(退職・退職金・税金・手当など)
年俸制に関しては、賞与(ボーナス)や残業代以外だと、退職金額や税金について疑問に思う方が多いようです。
年俸制の会社で退職を伝えるタイミングはいつまで?
一般的に正社員が会社を辞める時は、2週間前までに会社側に解約の申し入れをすれば退職ができます。民法627条で定められた権利ですね。
しかし年俸制を導入している会社では、自己都合による退職の場合「3か月前」までに会社側に伝える必要があります。
これは、民法第627条第3項で「6か月以上の期間によって報酬を定めた場合には、解約の申し入れは3か月前にしなければならない」と定められているためです。
年俸制は1年単位で給与を決定しているため「6か月以上の期間によって報酬を定めた場合」になります。
年俸制の会社に勤めながら転職活動をしている方は、退職を告げる前にご自身の会社の就業規則をご確認することをオススメします。
年俸制だと税金は高くなる?
「年俸制だと支払う税金(所得税)が高くなる」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
しかし実際は、年間で見ると年俸制でも月給制でも所得税額は変わりません。所得が同じであれば、給与形態によって所得税額が変わることはありません。
「年俸制だと税金が高い」というう誤解が生まれた理由は、年俸にボーナス・個人の業績給が含まれると1か月あたりの収入が増え(=源泉徴収額が多くなり)、以前より徴収税額が多い給与明細を受け取るからでしょう。しかし最終的に、年末調整が行われて納税額は一緒になります。社会保険料についても同様です。
年俸制に各種手当は含まれる?
年俸制が導入されている会社に勤める時「家賃補助手当」「通勤手当」といった各種手当金が年俸制に含まれるかを疑問に思う方が多いようです。
これは「会社による」としか答えられません。雇用契約書で基本給と残業代の内訳を調べたときと同じように、年俸制の内訳を見て、各種手当が年俸内に含まれるか別途支給かをご確認ください。
どんな職種に年俸制が多い?
特殊な専門知識や高度なスキルを要する仕事は年俸制になる場合が多いです。職人やプロのアスリート(プロ野球選手・サッカー選手など)を思い浮かべてください。
職人やアスリート以外だと、外資系企業やIT業界で年俸制の導入が増えています。また職種ではありませんが、日系大手企業でも役員やある程度の地位になると年俸制に移行する会社も多いです。
先日、国会で高度プロフェッショナル制度の導入が可決されました。高度プロフェッショナル制度の対象者は、仕事時間ではなく成果が求められ、残業代の支払いが一切必要ありません。今後は高度プロフェッショナル制度によって、成果主義と相性の良い年俸制の導入が加速するかもしれません。
特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の対象者となる条件は以下の2つです。
- 年収一千万円以上
- 高度の専門的知識を必要とする業務に従事している人
高度プロフェッショナル制度の対象職種例
- コンサルタント
- 金融アナリスト
- ディーリング業務
- 研究開発従事者
給与体系は必ず前もって確認しておこう
「実績を評価してくれる」「成果を給与に反映してほしい」などの思いを転職面接で伝えている方にとって、年俸制は魅力的かもしれません。
年俸制と月給制の違いを踏まえて、年俸制の会社を中心に転職活動を進めるのもいいですね。
ただし、会社によって基本給・賞与(ボーナス)・残業代・各種手当の算定方法が異なるため、再就職(転職先の内定を受諾する)前に人事に制度を確認することを忘れないようにしてください。面接の逆質問を活用するのもオススメです。
皆さんの転職活動がうまくいくことを応援しています。