退職時に必要な手続きで、最も大切なものの1つは社会保険です。
次の就職先が決まる前に会社を退職した場合、自分で手続きをしなければなりません。
今回は、社会保険の1つである「医療保険」に焦点をあててご説明します。
会社に勤めている方は、健康保険組合に加入していることでしょう。この医療保険によって、けがや風邪のときに、自己負担3割で診療を受けることが出来ます。
しかし、退職後に何も手続きをしないと、医療保険無加入になってしまい、診療に何倍もの値段がかかってしまいます。
そうならないために、会社を退職した場合の医療保険の手続きについて詳しくご説明します。
「国民保険に切り替える」方法と「健康保険を任意継続する」方法はもちろん、最後の章では、扶養家族の健康保険に加入する場合や減免を受ける場合についてもお話します。
退職後の健康保険の選び方は2通り
会社を退職後、再就職まで時間がある場合、健康保険の手続きは、大きく分けて2通りあります。
- 国民健康保険(通称国保)に切り替える
- 健康保険を任意継続する
まず、健康保険の任意継続と国民健康保険の定義をお話します。
その後、それぞれの加入条件、保険料、期限、手続き要件についてご説明していきます。
健康保険の任意継続、国民健康保険って?
国民健康保険とは
日本の公的医療保険の一つで、自営業者といった企業に勤めていない人や70歳未満の退職者が加入する保険になります。
国民皆保険が実現されている日本では、会社を退職したサラリーマンが会社の健康保険に加入しない場合は、必ず国民健康保険に加入する義務があります。
健康保険の任意継続とは
会社を退職したのちも、それまで所属していた会社の健康保険に任意継続被保険者として加入し続けることが可能です。
原則として、在籍時と同じ保障を受けることが出来ます。
退職後の健康保険、国保と任意継続の違いは?
では、国民保険切り替えと健康保険の任意継続は何が違うでしょうか。
まとめると以下のような表になります。
国民健康保険 | 健康保険の任意継続 | |
加入条件 |
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加入期間 |
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脱退条件 |
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手続き期日 |
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手続き窓口 |
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手続き書類 |
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保険料 |
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具体的な保険料は、住んでいる地域、家族構成、年齢によって異なります。
気になる方は、ご近くの市区町村の窓口で正確な値段をご確認することをおすすめします。
国民健康保険の条件・手続き・保険料まとめ
加入条件・期限
加入要件は「健康保険や共済組合といった公的医療保険のいずれにも属さない人」になります。
簡単にいうと、他の公的医療保険に入っていない人全てとなります。手続きは、退職日から14日以内に行いましょう。
遅れた場合に罰則はありませんが、無保険状態が長く続くと、いざというときに保険の適用が認められない場合があります。
また、保険料の延滞になってしまう場合があるので速やかに手続きを取りましょう。
保険料
保険料は、各市区町村によって異なります。市区町村ごとに、そこに住む人の特性に合わせて保険料を算出しているからです。
自分の保険料を詳しく知りたい方は、お近くの窓口に行ってみましょう。
保険料に関わる注意点
注意点として、2点あげます。
- 保険料は、前年の収入をもとに算出されます。そのため、前年度に一定以上の収入があると、保険料の負担が多くなってくる場合があります。
- 国民健康保険には「扶養家族」の概念がありません。そのため、国民健康保険に切り替えた場合、家族一人一人が保険料を支払うことになります。
必要書類と手続き場所
手続きで持参する書類は、以下の3つになります。
- 健康保険の資格喪失証明書(退職後に発行が認められます。退職した会社に発行を行ってもらいます。)
- 扶養家族のマイナンバーカードもしくはマイナンバーがわかるもの
- 本人確認書類、印鑑
手続き場所は、各市区町村の国保切り替えの窓口です。(2018年に国民健康保険は都道府県に移管されましたが、窓口は変わらず市町村です。)
この窓口で国民健康保険加入の手続きを行ったり、保険料を尋ねたりできます。
健康保険任意継続の条件・手続き・保険料まとめ
加入条件・期限
健康保険を任意継続するには、以下の2点の要件を満たす必要があります。
- 資格喪失期間までに「2か月以上継続した被保険者期間」があること
- 資格喪失日から「20日以内」に申請すること
20日間を過ぎてしまった場合、申請は出来なくなるので、任意継続被保険者の加入を迷っている方は、決断を急ぐべきです。
保険料
保険料は、退職時の標準報酬月額に基づいて決まります。
会社に勤めていた時は、被保険者である事業主の折半で保険料を負担する決まりがありましたが、任意継続被保険者の保険料は全額自己負担となります。
単純計算で保険料が2倍となります。(ただし保険料の上限は月額28万円です。)
扶養家族がいる場合でも、上限は28万円のままなので、扶養家族が多い方ほど任意継続を考えると良いでしょう。
注意点
注意点として2点お伝えいたします。
- 被保険者期間は2年間で、その間に任意で加入を取り消すことは出来ません。すなわち、「国民健康保険に加入する」という理由での資格喪失は認められていません。(ただし、裏ワザとして保険料を一日以上滞納することで、任意継続を脱退することは可能です。)
- 任意継続被保険者に加入すると、原則として元の会社の保険給付を受けることができますが、任意継続被保険者には、傷病手当金・出産手当金は支給されません。
必要書類・手続き場所
手続き場所は、加入していた健康保険組合、協会けんぽの都道府県支部になります。
《健康保険の任意継続に必要な書類》
- 「任意継続被保険者資格取得申出書」(ネットでダウンロード可)
- 扶養者がいる場合は、「健康保険被扶養者届」(ネットでダウンロード可)
になります。詳しくは、全国都道府県支部にお問い合わせください。
脱退条件
次の4点のいずれかを満たした場合、自動的に任意継続は終了となります。
- 加入後2年が経過する
被保険者期間が2年のため、2年が経過した後は国民健康保険に移行します。 - 他の会社に就職する
他の会社の健康保険組合に加入することになります。 - 保険料を一日以上滞納する
保険料は、ご自身で支払う必要がありますが、期限に遅れることは認められていないため気をつけましょう。 - 75歳を迎える
75歳になると、後期高齢者医療保険に入ることになります。
保険料が支払えない時の2つの対処法
退職後、経済的に保険料の支払いが大変な場合には、次の2通りの方法があります。
- 扶養家族の健康保険に入る
- 健康保険の軽減措置を受ける
扶養家族の健康保険に入る場合
年収によっては、扶養家族の健康保険に入ることも可能です。ただし、以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 扶養家族とは3等親以内
- あなたの年収が130万円以下
- (扶養家族と同居している場合)あなたの年収が被保険者の年収の1/2
- 失業給付金を受け取っている場合、日額3611円以下
上記4つの条件に当てはまりそうでしたら、扶養家族の方が加入している保険組合に問い合わせてください。
健康保険の減免措置を受ける場合
各市町村によって、減免の割合は異なりますが、以下の条件に当てはまると減免措置が受けられる場合があります。
- 会社都合で退職の場合
- 「雇用保険受給資格者表」の中の離職理由欄に記載してある番号が「11」「12」「21」「22」「23」「31」「32」「33」「34」の場合
当てはまるようでしたら、早めにお近くの窓口で申請をしてください。
減免措置の場合、過去にさかのぼって減免をしてもらうことは出来ないからです。
減免措置は、国民年金で行った場合、将来もらえる金額が少なくなるためあまり良い印象はないかもしれません。
しかし、国民保険の場合は、減免を受けても保険給付に影響はありません。年金に比べ、医療は国民の命に関係する事柄だからでしょう。
おわりに
会社を退職すると、今まで会社がやってくれていた医療保険の手続きを自分でしなければならず、面倒です。
手続きは面倒ですが、どうせひと手間かかるならば、お近くの窓口にご自身の保険料を問い合わせると良いでしょう。
保険料を節約できる医療保険を選択できるかもしれません。
また、健康保険に任意継続しても、国保に加入しても給付内容に差はありません。せっかくなら、保険料を節約できる方の保険を選択したいものです。